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中平コラムSeries131:組織と個人の「見えない溝」を埋める探偵思考 ~AIという相棒と挑んだ一週間の事件簿~って話

作成者: 中平裕貴|2025年08月27日

こんにちは、エスワイシステム関東の中平です。

 

管理者の頑張りが、なぜか組織目標と連動しない

ITリーダーとして数多くの組織課題と向き合ってきた私にとって、これは決して珍しい相談ではない。

むしろ、多くの企業が抱える根深い問題と言えるだろう。

 

しかし、この一見単純そうな「事件」の奥には、組織と個人を分かつ深い溝が横たわっている。
ある日曜の朝、私は一つの実験を始めることにした。

 

この難事件を、私が提唱する「探偵思考」のフレームワークを使って解決に導く一週間の挑戦である。

相棒はAI。証拠は現場の生々しいデータ。そして目指すは、再現性のある解決への道筋だった。

 

 

第一調査方針:なぜ「犯人探し」ではなく「理想」から始めるのか

 

多くの組織で、問題が発生すると最初に聞こえてくるのは「誰が悪いんだ?」という声だ。

しかし、これこそが最大の落とし穴である。

問題から入ると、議論は必然的に「犯人探し」になる。

KPIが曖昧なのが悪い」「マネージャーの意識が低い」「経営陣の方針が不明確だ」——。

 

気がつけば、会議室は愚痴大会の場と化してしまう。

 

そこで私が採用するのは、まったく逆のアプローチだ。「理想(北極星)」を最初に置くのである。

今回の事件における理想を、私はこう定義した。

 

全ての管理者が “自分のチームの成果が、会社の売上にどう繋がるか” を具体的に語れる状態

 

問題から入れば「誰が悪いんだ?」という後ろ向きな問いが生まれる。

しかし理想から入れば「どうすれば、そこに辿り着けるか?」という未来志向の問いが立つ。

この小さなスイッチの切り替えが、チームの空気を一変させるのだ。

理想を語るなんて、なんだか青臭い…」そう思うリーダーは多い。

私自身、かつてはそうだった。しかし、コンパスも海図もなしに「とにかく漕げ!」と叫ぶ船長に、果たして誰がついてくるだろうか。

 

理想を語るのは、気恥ずかしさを乗り越える最初の挑戦なのである。

 

 

第二の調査方針:現場に潜り、冷徹に「証拠」を集める

 

理想という北極星を置いたら、次は感情を排して事実だけを収集する段階だ。

ここで重要なのは、憶測や印象ではなく、検証可能な「証拠」を集めることである。

今回の事件における証拠ファイルは、以下の通りだった。

【物証】
-  全社KPIは「売上」「単価」の2つのみ
-  営業会議は活動報告に終始している
-  引き合いの数は前月比120%だが、売上への寄与度は不明

【証言】
- 「頑張ります」という報告:週3回
- 「受注に繋がったか」の言及:0回

耳の痛い数字や事実こそが、解決への最短ルートを示してくれる。

証拠集めには具体的なコツがある。

物証を集める際は「過去3ヶ月の営業会議の議事録を引っ張り出し、時系列に並べる」といった方法が有効だ。

これだけで「誰が」「いつ」「何を」報告していたかが一目瞭然になる。

証言を集める際の質問にも技術が必要だ。「KPIについてどう思いますか?」では愚痴や感想しか得られない。

先月の活動で、一番受注に繋がったと思うものは何ですか?」のような行動ベースの質問こそが、客観的な事実を引き出す鍵となる。

不都合な真実に向き合うのは、誰だって辛い。

しかし私たちが恐れるべきは犯人ではなく「見立て違い」である。

 

現場の生々しい証拠にこそ、理想を現実にするための最大のヒントが隠されているのだ。

 

 

第三の展開:AIという「敵役」が暴いた、計画の致命的な穴

 

証拠を元に、私は最初の行動計画を立てた。

【行動】

-  全管理者を招集し「新KPIを作るワークショップ」を開催


完璧だと思った。全員参加型のワークショップなら、当事者意識も高まるし、現場の声も反映できる。

まさに理想的な解決策に見えた。

しかし、AIという相棒は容赦がない。

私がAIに「この行動の弱点3つ、失敗パターン2つを教えて」と依頼したとき、返ってきた反証は痛烈だった。

【弱点】
-  KPI設計の知識がないと議論が発散する
-  結局、自分たちに都合の良い指標が乱立する
-  準備不足で参加者のモチベーションが下がる

正直に告白しよう。AIに弱点を指摘され、画面越しに「甘い」と言われた気がして、思わずマウスを握る手に力が入った。

自分の考えた施策を、何の感情もなくロジックで斬ってくるのだから。

しかし、この一瞬の感情こそが乗り越えるべき罠だった。

反証は「私へのダメ出し」ではない。「事件解決への新たな手がかり」なのである。

AIという相棒を使いこなすコツがある。

漠然と聞くのではなく「役割(ペルソナ)」を与えるのだ。

あなたはCFOです。この施策の予算を承認できない理由を3つ挙げてください

と聞けば、経営的な視点での弱点が浮き彫りになる。

 

あなたは現場のベテラン営業です。この新KPIに対する本音の不満を3つ教えてください

と聞けば、現場のリアルな反発が見えてくる。

完璧な施策など存在しない。だからこそ、面白いのである。

 

 

第四の転換:反証を「制約」ではなく「設計図」として活用する

 

AIの反証を受け、私は行動計画を大胆に進化させた。

【修正前】
- 全員で一斉に「新KPIワークショップ

【進化後】
-  Step1: 幹部陣とKPI設計の基本学習
-  Step2: 1チームでパイロット実施  
-  Step3: 成功事例として全社展開

全員で」から「まず小さく試す」へ。一気に現実的な一手になった。

小さく試す」は単なる慎重さではない。これは組織変革における最強の武器である。

失敗コストを最小化でき、成功の確実性を検証でき、熱烈な推進者を育成でき、反対派の懸念を事前に潰すことができる。

全社一律で進めるより、まずは「成功の種」を一つ、丁寧に育てる。

その種がいずれ森になる。これがプロジェクトマネージャーの発想なのだ。

一度決めたことを変えるのはカッコ悪い…」そんな思い込みに私たちは縛られがちだ。

しかし、現場からの証拠やAIからの反証で、より良いルートが見つかったのに、意地になって旧ルートを進むのはただの愚か者だろう。

計画は、進化させるためにある。賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶ。

だが挑戦者は、反証という「逆風」を「追い風」に変えるのである。

 

 

結章:一週間の調査で得た「確実な次の一手」

 

金曜の朝を迎えたとき、私の手元には明確な成果があった。

【調査の軌跡】
-  月曜:漠然とした違和感の言語化
-  火曜:3つの具体的な物証の発見
-  水曜:AIが暴いた致命的な落とし穴
-  木曜:失敗率を劇的に下げた新戦略の立案

たった4日で、「なんとなくの問題」が「確実な次の一手」に変わった。これが探偵思考の威力である。

この【理想→証拠→行動】のフレームワークは、あらゆる事件に応用できる。

例えば「新人の離職率が高い」という事件なら
-  理想:新人が3年後の自分のキャリアを、自信を持って語れる状態
-  証拠:現在のオンボーディング資料は、業務手順の解説に終始している
-  行動:まず影響の少ない1名の新人と、私が1on1でキャリア面談を実施してみる

このフレームワークがあれば、どんな難事件も「必ず解ける謎」に変わる。

 

-----------------

[3行テンプレ]
北極星(理想):**___  
証拠(事実/出典/前提):**___  
行動(最小の一手/担当・期日):**___  


AIへ:弱点3・失敗2・兆し1(各1行/不明は「不明」)

-----------------

 

あなたの「事件解決」が始まる。

 

エピローグ:最大の発見

 

しかし、今回の一週間で私自身が得た最大の発見は、別のところにあった。
それは「完璧な計画への執着」こそが、思考を停止させる最大の犯人だということである。

水曜日、AIに「準備不足では?」と指摘された瞬間、正直カチンときた。

だが、私が向き合うべきだったのはAIではなく、私自身の「こうあるべきだ」という思い込みだったのだ。

自分の「当たり前」を疑えるかどうか。そこに、事件解決の糸口は隠されている。

組織の課題は複雑だ。人の心はさらに複雑だ。しかし、だからこそ探偵思考が活きる。

理想という北極星を掲げ、現場の証拠に耳を傾け、優秀な相棒(AI)の反証に素直に向き合う。

そして何より大切なのは、自分の思い込みを疑い続ける勇気を持つことである。


あなたが今直面している「事件」は何だろうか。

その解決の第一歩は、犯人探しをやめて、理想の状態を一行で言語化することから始まる。

新しい一週間が始まろうとしている。また新たな事件が私たちを待っているかもしれない。

しかし、それを楽しみに変える武器を、私たちはもう手にしているのである。

 

 

著者情報


 

中平 裕貴(Yuki Nakahira)

株式会社エスワイシステム 関東事業本部

関東第2事業部 3SEシステム5部 事業部長代理

 

『技術 × 事業戦略 × 組織運営をつなぐ実務家』

 

エンジニアとしての技術的な知見を持ちながら、営業・事業運営・HR・組織マネジメントの視点も持つ実務家。

エンジニア、グループ会社経営、営業を経験し、技術とビジネスの両方を理解した「橋渡し役」として事業推進に携わる。

技術と組織運営をつなぎ、主体的なチームを育て、人々が「WANT TO」で動ける社会を目指す。

 

🛠 技術領域

アプリ開発、クラウド、データ分析、AI、

📈 事業・営業経験

SI事業の拡大、プロジェクトマネジメント、アジャイル

🏗 組織マネジメント

リーダー育成、組織改革、チームビルディング

 

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