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中平コラムSeries133:火消しの美学 - 緊急事態に学ぶプロジェクト立て直し術って話

作成者: 中平裕貴|2025年09月16日

こんにちは、エスワイシステム関東の中平です。

 

すみません、この案件、もう無理です…」 
ベテランPMの田中さん(仮名)から、こんな電話が入りました。

基幹システムリプレイス案件、順調だと思っていたのに、蓋を開けてみると課題だらけ。
7月からずっと進捗が滞っていたというのです。

その瞬間、僕は気づきました。「任せる」つもりが「放り投げて」いたことに。
探偵時代に学んだはずの「違和感を見抜く技術」を、マネジメントで活かせていなかったのです。

 

 

月曜日:「任せる」と「放り投げる」の境界線

緊急事態が発覚した翌日。僕は自分が犯した3つの間違いを整理しました。

 

僕が犯した3つの間違い

  • 「考える人」がいる前提で設計:優秀なメンバーがいるチームでうまくいった仕組みを、そのまま他に適用
  • 「集中力コスト」を優先:自分の頭を空けたいから、進捗把握を軽くした → 検知遅延
  • 「背中を見せる文化」への過信:自分のスタイルが万能だと思い込んだ

 

 

結果として、7月まるまる進捗停滞を見逃すことになりました。
探偵時代なら、こんな「証拠隠滅」を見逃すはずがなかったのに。

 

「任せる」と「放り投げる」の判定基準

⭕:任せる

  • 相手の能力と案件の難易度を照合済み
  • 定期的な確認ポイントを設定
  • 困った時の相談ルートが明確

 

❌:放り投げる

  • 「できるでしょ」という期待だけ
  • 進捗確認は「大丈夫?」程度
  • 問題発覚は事後報告待ち

 

 

火曜日:異変を早期発見する「センサー」の作り方

振り返ってみると、実は「異変のサイン」は7月からずっと出ていました。

定例会議での「順調です」報告、でも具体的な成果物が見えない。

 

課題は出ているが「なんとかします」で終了。これ、全部「火種」だったんです。

でも当時の僕は気づかなかった。「大丈夫?」「はい、大丈夫です」で安心していました。

探偵なら絶対に見逃さない「偽証」を、PMとしては素通りしていたのです。

 

見えない停滞を見抜く確認術

①OUTPUTの中身をちゃんと確認

❌:「資料作りました」→「お疲れさま
⭕:「資料作りました」→「5分で中身を見せてください

 

②課題が洗い出されて計画に乗っているか確認

❌:「課題はありますが、なんとかします」
⭕:「課題リストを見せてください。いつまでに誰が解決しますか?」

 

そして僕が導入したのが「毎朝15分キャッチアップ」の仕組み。確認する項目は3つ。

昨日のOUTPUT(中身を簡潔に説明)、発生した課題(計画への影響度付き)、今日の作業(完了予定時刻付き)。

 

たった15分でしたが、効果は絶大でした。

 

 

水曜日:緊急時の立て直し技術

田中PMがバンザイした翌日の土曜日。僕は一人でオフィスにいました。
パニックになったらアウト。まず「全体の火種を見える化」することから始めました。

ヒアリングの結果、36件の課題リストが完成。

これが立て直しの第一歩でした。火消しの技術は「冷静さ」から始まるのです。

 

36件の課題を前にした3ステップ

①影響度×緊急度で仕分け

  • P0(今日やらないとヤバい)
  • P1(今週中に解決必要)
  • P2(来週以降でOK)

 

②担当者と期限を明確化

  • 誰が?いつまでに?を必ず書く
  • 曖昧な表現は禁止

③依存関係を整理

  • AができないとBができない
  • この順序を見える化

 

そして、火消しで一番重要だったのが「キャッチアップシート」の威力でした。

 

リスク/課題/前提/依存の4分類で、事実(何が起きているか)、影響(放置するとどうなるか)、担当者と期限、次アクション(具体的に何をするか)を整理。この1枚で、関係者全員が同じ景色を見れるようになったのです。


火消しの技術=情報整理の技術。バラバラの情報を、一つの地図にまとめる。これができれば、どんな大火事でも消せます。

 

 

木曜日:火消し現場のマネジメント技術

火消しが始まった瞬間、僕の役割は激変しました。

 

Before:週1の進捗確認で「順調ですね」。

After:毎朝P0/P1の進捗管理+顧客対応窓口。

でも、これって単なるマイクロマネジメントではありません。緊急時の体制再構築なんです。

精神的につぶれてしまった田中PMを見て痛感しました。

 

人には限界がある。その限界を見極めて、リアルタイムで役割を再設計する。これが火消し現場のマネジメント技術です。

 

人を見極める現実的な体制設計

判定基準:「自ら進んで進行できるレベルかどうか

 

⭕:自走できる人

  • 技術的判断は任せる
  • 結果だけ報告してもらう

 

🔶:伴走が必要な人

  • 毎朝15分の進捗確認必須
  • 重要判断は事前相談ルール

 

❌:完全サポートが必要

  • 会議設定で接触頻度をコントロール
  • 顧客対応窓口は自分が担当

 

正直に告白します。僕は「自分の頭を空けたい」から任せていました。

でも緊急時は、そんな甘い考えは通用しない。

 

火消しマネジメントは「どこを握り、どこを任せるか」のリアルタイム設計。

緊急事態こそ、リーダーの器が試される瞬間なのです。

 

金曜日:火消しを「組織の免疫力」に変える技術

一週間の火消しを終えて、ふと気づいたことがありました。

この経験で見えてきたもの:メンバーの本当の能力、システムの真の弱点、チームワークの実力、自分のマネジメントの穴。

火消しは単なる「応急処置」じゃない。組織の「健康診断」でもあるのです。

そして何より、この経験を経たチームは、確実に強くなっている。

 

緊急事態を成長機会に変える。これが火消しの美学の真髄です。

 

火消しから得られる3つの財産

①軽い仕組みの重要性

  • 毎朝15分キャッチアップ → 委任の非計測を防ぐセンサー

 

②情報整理の型

  • キャッチアップシート → どんな混乱も1枚の地図に変換

 

③現実的な体制設計

  • 人の能力を見極めて接触頻度を調整 → 理想論を捨てた実用性

 

これらは全て「次の火種」を防ぐ免疫システムになります。

火消し経験は、組織を強くする最高の教材。

 

無駄にしちゃもったいないのです。

 

火消しは「失敗」じゃない。「成長機会」だ。

今回の経験で、僕は3つのことを学びました。

任せるには技術が必要、情報整理が火消しの核心、緊急事態こそリーダーシップが試される、ということです。

そして何より、火消しを経験したチームは、必ず前より強くなる。

 

探偵時代に学んだ「事件は現場で起きている」という教訓。

プロジェクトマネジメントでも同じでした。

 

現場で起きた緊急事態こそが、最高の学習機会になるのです。

爆発じゃなくて水漏れで沈む——。

議事録やKPIに載らない"見えない課題"は、現場をじわじわ蝕みます。

 

でも適切な「火消しの美学」を身につければ、どんな緊急事態も組織成長の糧に変えることができる。

次にどんな「事件」が待っているかわかりませんが、もう怖くない。

火消しの技術を身につけた僕たちには、どんな炎も消せる準備ができているのですから。

 

 

 

著者情報


 

中平 裕貴(Yuki Nakahira)

株式会社エスワイシステム 関東事業本部

関東第2事業部 3SEシステム5部 事業部長代理

 

『技術 × 事業戦略 × 組織運営をつなぐ実務家』

 

エンジニアとしての技術的な知見を持ちながら、営業・事業運営・HR・組織マネジメントの視点も持つ実務家。

エンジニア、グループ会社経営、営業を経験し、技術とビジネスの両方を理解した「橋渡し役」として事業推進に携わる。

技術と組織運営をつなぎ、主体的なチームを育て、人々が「WANT TO」で動ける社会を目指す。

 

🛠 技術領域

アプリ開発、クラウド、データ分析、AI、

📈 事業・営業経験

SI事業の拡大、プロジェクトマネジメント、アジャイル

🏗 組織マネジメント

リーダー育成、組織改革、チームビルディング

 

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