中平コラムSeries133:火消しの美学 - 緊急事態に学ぶプロジェクト立て直し術って話
現場で学んだ実践的マネジメントを紹介。火消しを“失敗”ではなく“成長機会”に変えるプロジェクト術を解説します。

こんにちは、エスワイシステム関東の中平です。
「すみません、この案件、もう無理です…」
ベテランPMの田中さん(仮名)から、こんな電話が入りました。
基幹システムリプレイス案件、順調だと思っていたのに、蓋を開けてみると課題だらけ。
7月からずっと進捗が滞っていたというのです。
その瞬間、僕は気づきました。「任せる」つもりが「放り投げて」いたことに。
探偵時代に学んだはずの「違和感を見抜く技術」を、マネジメントで活かせていなかったのです。
月曜日:「任せる」と「放り投げる」の境界線
緊急事態が発覚した翌日。僕は自分が犯した3つの間違いを整理しました。
僕が犯した3つの間違い
- 「考える人」がいる前提で設計:優秀なメンバーがいるチームでうまくいった仕組みを、そのまま他に適用
- 「集中力コスト」を優先:自分の頭を空けたいから、進捗把握を軽くした → 検知遅延
- 「背中を見せる文化」への過信:自分のスタイルが万能だと思い込んだ
結果として、7月まるまる進捗停滞を見逃すことになりました。
探偵時代なら、こんな「証拠隠滅」を見逃すはずがなかったのに。
「任せる」と「放り投げる」の判定基準
⭕:任せる
- 相手の能力と案件の難易度を照合済み
- 定期的な確認ポイントを設定
- 困った時の相談ルートが明確
❌:放り投げる
- 「できるでしょ」という期待だけ
- 進捗確認は「大丈夫?」程度
- 問題発覚は事後報告待ち
火曜日:異変を早期発見する「センサー」の作り方
振り返ってみると、実は「異変のサイン」は7月からずっと出ていました。
定例会議での「順調です」報告、でも具体的な成果物が見えない。
課題は出ているが「なんとかします」で終了。これ、全部「火種」だったんです。
でも当時の僕は気づかなかった。「大丈夫?」「はい、大丈夫です」で安心していました。
探偵なら絶対に見逃さない「偽証」を、PMとしては素通りしていたのです。
見えない停滞を見抜く確認術
①OUTPUTの中身をちゃんと確認
❌:「資料作りました」→「お疲れさま」
⭕:「資料作りました」→「5分で中身を見せてください」
②課題が洗い出されて計画に乗っているか確認
❌:「課題はありますが、なんとかします」
⭕:「課題リストを見せてください。いつまでに誰が解決しますか?」
そして僕が導入したのが「毎朝15分キャッチアップ」の仕組み。確認する項目は3つ。
昨日のOUTPUT(中身を簡潔に説明)、発生した課題(計画への影響度付き)、今日の作業(完了予定時刻付き)。
たった15分でしたが、効果は絶大でした。
水曜日:緊急時の立て直し技術
田中PMがバンザイした翌日の土曜日。僕は一人でオフィスにいました。
パニックになったらアウト。まず「全体の火種を見える化」することから始めました。
ヒアリングの結果、36件の課題リストが完成。
これが立て直しの第一歩でした。火消しの技術は「冷静さ」から始まるのです。
36件の課題を前にした3ステップ
①影響度×緊急度で仕分け
- P0(今日やらないとヤバい)
- P1(今週中に解決必要)
- P2(来週以降でOK)
②担当者と期限を明確化
- 誰が?いつまでに?を必ず書く
- 曖昧な表現は禁止
③依存関係を整理
- AができないとBができない
- この順序を見える化
そして、火消しで一番重要だったのが「キャッチアップシート」の威力でした。
リスク/課題/前提/依存の4分類で、事実(何が起きているか)、影響(放置するとどうなるか)、担当者と期限、次アクション(具体的に何をするか)を整理。この1枚で、関係者全員が同じ景色を見れるようになったのです。
「火消しの技術=情報整理の技術。バラバラの情報を、一つの地図にまとめる。これができれば、どんな大火事でも消せます。」
木曜日:火消し現場のマネジメント技術
火消しが始まった瞬間、僕の役割は激変しました。
Before:週1の進捗確認で「順調ですね」。
After:毎朝P0/P1の進捗管理+顧客対応窓口。
でも、これって単なるマイクロマネジメントではありません。緊急時の体制再構築なんです。
精神的につぶれてしまった田中PMを見て痛感しました。
人には限界がある。その限界を見極めて、リアルタイムで役割を再設計する。これが火消し現場のマネジメント技術です。
人を見極める現実的な体制設計
判定基準:「自ら進んで進行できるレベルかどうか」
⭕:自走できる人
- 技術的判断は任せる
- 結果だけ報告してもらう
🔶:伴走が必要な人
- 毎朝15分の進捗確認必須
- 重要判断は事前相談ルール
❌:完全サポートが必要
- 会議設定で接触頻度をコントロール
- 顧客対応窓口は自分が担当
正直に告白します。僕は「自分の頭を空けたい」から任せていました。
でも緊急時は、そんな甘い考えは通用しない。
火消しマネジメントは「どこを握り、どこを任せるか」のリアルタイム設計。
緊急事態こそ、リーダーの器が試される瞬間なのです。
金曜日:火消しを「組織の免疫力」に変える技術
一週間の火消しを終えて、ふと気づいたことがありました。
この経験で見えてきたもの:メンバーの本当の能力、システムの真の弱点、チームワークの実力、自分のマネジメントの穴。
火消しは単なる「応急処置」じゃない。組織の「健康診断」でもあるのです。
そして何より、この経験を経たチームは、確実に強くなっている。
緊急事態を成長機会に変える。これが火消しの美学の真髄です。
火消しから得られる3つの財産
①軽い仕組みの重要性
- 毎朝15分キャッチアップ → 委任の非計測を防ぐセンサー
②情報整理の型
- キャッチアップシート → どんな混乱も1枚の地図に変換
③現実的な体制設計
- 人の能力を見極めて接触頻度を調整 → 理想論を捨てた実用性
これらは全て「次の火種」を防ぐ免疫システムになります。
火消し経験は、組織を強くする最高の教材。
無駄にしちゃもったいないのです。
火消しは「失敗」じゃない。「成長機会」だ。
今回の経験で、僕は3つのことを学びました。
任せるには技術が必要、情報整理が火消しの核心、緊急事態こそリーダーシップが試される、ということです。
そして何より、火消しを経験したチームは、必ず前より強くなる。
探偵時代に学んだ「事件は現場で起きている」という教訓。
プロジェクトマネジメントでも同じでした。
現場で起きた緊急事態こそが、最高の学習機会になるのです。
爆発じゃなくて水漏れで沈む——。
議事録やKPIに載らない"見えない課題"は、現場をじわじわ蝕みます。
でも適切な「火消しの美学」を身につければ、どんな緊急事態も組織成長の糧に変えることができる。
次にどんな「事件」が待っているかわかりませんが、もう怖くない。
火消しの技術を身につけた僕たちには、どんな炎も消せる準備ができているのですから。
著者情報
中平 裕貴(Yuki Nakahira)
株式会社エスワイシステム 関東事業本部
関東第2事業部 3SEシステム5部 事業部長代理
『技術 × 事業戦略 × 組織運営をつなぐ実務家』
エンジニアとしての技術的な知見を持ちながら、営業・事業運営・HR・組織マネジメントの視点も持つ実務家。
エンジニア、グループ会社経営、営業を経験し、技術とビジネスの両方を理解した「橋渡し役」として事業推進に携わる。
技術と組織運営をつなぎ、主体的なチームを育て、人々が「WANT TO」で動ける社会を目指す。
🛠 技術領域
アプリ開発、クラウド、データ分析、AI、
📈 事業・営業経験
SI事業の拡大、プロジェクトマネジメント、アジャイル
🏗 組織マネジメント
リーダー育成、組織改革、チームビルディング
📩 お問い合わせ・お仕事のご相談はこちらから↓
人気の記事