中平コラムSeries14:SIer業界のクラウド転換は本当に進んでいるのかという話
クラウド売上比率の推定、成功している企業の特徴、受託開発依存の課題、今後の生き残り戦略について解説。

こんにちは、エスワイシステム関東の中平です。
「SIer業界はクラウドファーストへ」と言われて久しい。
多くの企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)を掲げ、クラウド化を推進しているように見える。
しかし、実際のところSIerは本当にクラウドビジネスへシフトできているのか?
私はSIerのプロジェクトに関わる中で、「DX=クラウド化」ではなく、ただの業務改善やシステム刷新を“DX”と呼んでいるケースが多いと感じる。
本記事では、富士通・NTTデータ・NEC・日立製作所といった主要SIer企業のクラウド戦略を分析し、
どの企業が成功しているのか? どこが遅れを取っているのか?
についてデータと実務視点で考察していきます。
SIer業界の現状
📊 市場規模と主要プレイヤー
国内のSIer業界は以下の企業が市場をリードしている。
企業名 | 市場シェア | クラウド戦略の特徴 |
---|---|---|
NTTデータ |
国内首位 |
AI・生体認証技術を活用したクラウド。 公共セクターや安全保障分野のデジタル化を支援。 |
NEC | 第2位 |
グローバル展開強化。金融業界向けクラウドが強み。 AIデータ分析を活用。 |
富士通 | 第3位 |
自社クラウド「FUJITSU Cloud Service」を展開。 パブリック&プライベートクラウド対応。AI/IoTと連携。 |
日立製作所 | 第4位 |
製造業・社会インフラ向けクラウド「Lumada」を展開。 IoT+AIを活用し産業DXを推進。 |
クラウド売上比率の推定
各社のIR資料を調査したが、具体的なクラウド売上比率を公表している企業はほぼ存在しない。
これは、クラウド事業がまだ確立していない、または受託開発と混在していることを意味していると推測できる。
しかし、各社の事業動向から、クラウドシフトの進捗状況を以下のように推測できる。
✅ クラウド転換が進んでいる企業
- 富士通
自社クラウドサービスを展開し、DX案件の多くをクラウドベースで提供。特にAIやIoTとの組み合わせを強化。
- NTTデータ
グローバル市場でのクラウド活用が進んでおり、金融業界向けのクラウドソリューションが強み。AWSやAzureとの連携を強化。
❗ クラウドシフトが遅れている可能性のある企業
- NEC
AIや生体認証を活用したクラウドソリューションは強みだが、事業ポートフォリオに占めるクラウド比率は不透明。
- 日立製作所
製造業・社会インフラ向けのシステム構築がメインであり、クラウドシフトよりもオンプレミスとの共存型DXが主体。
クラウド転換の成功と課題
✅ 成功している企業の特徴
- クラウドネイティブなサービス提供が進んでいる(例:富士通のSaaS・PaaS展開)
- AWS、Azureなどのパブリッククラウドを活用し、受託型からマネージドサービスへ移行している
(例:NTTデータのグローバル金融クラウド) - DX投資がクラウドシフトに直結している(例:富士通のクラウド×AI戦略)
❗ 課題が残る企業の特徴
- オンプレミス案件が依然として多く、クラウド売上比率が不透明(NEC、日立製作所)
- DX投資額は増えているが、それがクラウド事業の成長に結びついているとは限らない
- 受託開発の構造から脱却できていない企業は、クラウド市場で競争力を発揮しにくい
今後のSIer業界の生き残り戦略
今後、SIerがクラウド市場で競争力を持ち続けるためには、以下の3つの戦略が重要となる。
- クラウドネイティブ企業へのシフト
- 受託開発モデルから脱却し、SaaS・PaaS型のサービス提供を強化する
- AI×クラウドを活用した新規事業創出
- 富士通のように、AI・データ分析を活用した付加価値のあるクラウドサービスを開発
- グローバル市場の開拓
- NTTデータのように、海外企業との提携を強化し、日本市場以外のクラウド需要を取り込む
まとめ
・SIer業界のクラウド転換は「部分的に成功、しかし全体としては道半ば」
・一部の企業(富士通、NTTデータ)はクラウド売上を伸ばしているが、業界全体では受託開発からの脱却が進んでいない
・DX投資は増えているものの、それがクラウド事業の成長に直結しているとは限らない
・今後のSIerの課題は、「どこまでクラウドネイティブになれるか?」
・受託開発からSaaSやマネージドサービス提供へシフトできる企業が生き残る
個人的な視点:受託開発の価値
ここまで、SIer業界のクラウド転換の現状と課題をデータと市場分析の視点から考察してきました。
多くの企業が「人月商売の限界」を指摘し、受託開発からの脱却を模索しているのは事実としてはあります。
しかし、個人的な見解としては、受託開発というスタイルが持つ価値の見直しも必要であると考えています。
受託開発は「労働集約型」「スケールしづらい」と言われますが、人が集まり、力を合わせて1つのシステムを作り上げるその過程こそが、ものづくりの本質ではないのでしょうか?
クラウドやAIを活用した自動化・効率化が進む時代(推進している立場の私としても)でも、
「人の手で試行錯誤しながら、最適解を探していくプロセス」には、独特の魅力があります。
クラウドが進化し、SIerが事業モデルを変えていくことは避けられない流れではありますが、受託開発という「人が主役のものづくり」が完全になくなるとは思えませんし、むしろ「人だからこそできる価値提供」が求められる時代になるとも言えます。
だからこそ、SIerの未来は、「クラウドと受託開発のバランスをどう取るか?」にかかっているのではないのでしょうか。
著者情報
中平 裕貴(Yuki Nakahira)
株式会社エスワイシステム 関東事業本部
関東第2事業部 3SEシステム6部 事業部長代理
『技術 × 事業戦略 × 組織運営をつなぐ実務家』
エンジニアとしての技術的な知見を持ちながら、営業・事業運営・HR・組織マネジメントの視点も持つ実務家。
エンジニア、グループ会社経営、営業を経験し、技術とビジネスの両方を理解した「橋渡し役」として事業推進に携わる。
🛠 技術領域
アプリ開発、クラウド、データ分析、AI
📈 事業・営業経験
SI事業の拡大、プロジェクトマネジメント、アジャイル
🏗 組織マネジメント
リーダー育成、組織改革、チームビルディング
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